「あれ、なんだか視界の一部が見えにくい…」
「人や物にぶつかりやすくなった」
「視界に黒いカーテンがかかったようだ」
そんな「視野が欠ける」という症状に、不安を感じていませんか?
「疲れ目かな」「年のせいだろう」と軽く考えてしまいがちですが、その症状、実は放置すると失明に至る可能性のある、危険な病気のサインかもしれません。また、目だけでなく、脳の病気が原因となっているケースもあります。
この記事では、「視野が欠ける」というキーワードで検索されたあなたのために、考えられる原因や病気、そして今すぐ取るべき行動について、詳しく解説していきます。
ご自身の、あるいは大切なご家族の目の健康を守るために、ぜひ最後までお読みください。
「視野が欠ける」とは?あなたの見え方、チェックしてみましょう
まず、「視野」とは、顔や目を動かさずに見渡せる範囲のことを指します。そして「視野が欠ける(視野欠損)」とは、その範囲の一部が見えなくなる状態のことです。
片目だけで起こることもあれば、両目で起こることもあります。また、欠けている部分は真っ暗に見えるとは限らず、「ぼやけて見える」「かすんで見える」といった感じ方をする人も多く、ご自身では気づきにくいのが特徴です。
視野が欠けるときの主な症状パターン
- 中心暗点(ちゅうしんあんてん):視野の中心部、つまり最も見たい部分が見えにくくなります。文字を読もうとすると、その文字が消えて見えたり、人の顔の中心がぼやけたりします。
- 視野狭窄(しやきょうさく):視野の周辺部から徐々に見えなくなり、見える範囲が狭まっていきます。トンネルの中から外を覗いているような見え方(トンネルビジョン)になります。
- 半盲(はんもう):視野の右半分、あるいは左半分が見えなくなります。両目に同じ側の視野欠損が起こることが多いのが特徴です。
- 部分的な欠損:視野の一部が、まるでカーテンや膜がかかったように見えなくなります。上半分、下半分など、様々な現れ方をします。
- その他:物が歪んで見える(変視症)、視界にキラキラした光が見える、などの症状を伴うこともあります。
簡単セルフチェック!アムスラーチャートを使ってみよう
視野の中心部の異常は、「アムスラーチャート」という格子状の図を使って簡単にセルフチェックできます。
【チェック方法】
- 片方の目を手で隠します。
- 普段お使いのメガネやコンタクトレンズは着けたまま、30cmほど離れた位置から図の中心にある黒い点を見つめます。
- 中心の点を見つめたまま、格子の線がどのように見えるかを確認します。
【異常のサイン】
- 格子が波打って見える、歪んで見える
- 線のいずれかの部分が欠けて見える
- 中心が暗く見える、ぼやけて見える
もし、このような見え方をした場合は、中心暗点を引き起こす病気の可能性があります。ただし、これはあくまで簡易的なチェックです。異常を感じなくても、気になる症状があれば必ず眼科を受診してください。
【要注意】視野が欠ける原因となる主な「目の病気」
視野が欠ける症状の多くは、目の病気が原因で起こります。特に注意が必要な代表的な疾患を5つ紹介します。
緑内障:最も多く、気づきにくい「静かなる失明」
● どんな病気?
緑内障は、眼圧(目の中の圧力)などによって視神経が障害され、視野が徐々に欠けていく病気です。日本の40歳以上の20人に1人、つまり約5%が罹患していると推定されており、中途失明原因の第1位となっています。
● 特徴的な視野の欠け方
初期段階では、視野の中心から少し外れた位置に、ごく小さな見えない点(暗点)が出現します。この段階では自覚症状はほとんどありません。病気が進行するにつれて暗点が広がり、最終的には視野全体が狭窄し、視力も低下して失明に至ります。
● その他の症状
ほとんどのタイプの緑内障(慢性緑内障)では、痛みなどの自覚症状はありません。しかし、急激に眼圧が上昇する「急性緑内障発作」の場合は、目の痛み、頭痛、吐き気、かすみなどを伴います。これは緊急治療が必要な状態です。
● 治療法
一度障害された視神経は元に戻りません。そのため、治療の目的は「これ以上悪化させないこと」です。主に眼圧を下げる点眼薬を毎日使用する薬物療法が中心となります。場合によっては、レーザー治療や手術が行われることもあります。
緑内障は自覚症状がないまま進行します。早期発見・早期治療が何よりも重要ですので、40歳を過ぎたら症状がなくても定期的に眼科検診を受けることを強くお勧めします。
網膜剥離:緊急性の高い病気!「黒いカーテン」は危険信号
● どんな病気?
網膜剥離は、眼球の内側にある網膜(光を感じるスクリーン状の膜)が、その下の層から剥がれてしまう病気です。剥がれた網膜は栄養が届かなくなり、光を感じる機能を失ってしまいます。
● 特徴的な視野の欠け方
「視野の一部に黒いカーテンがかかったように見えない」「突然、墨を流したように見え始めた」といった症状が典型的です。網膜が剥がれた部分に対応して視野が欠けます。剥離が中心部の黄斑に及ぶと、急激な視力低下をきたします。
● その他の症状
前兆として、視界に黒い点やゴミのようなものが飛んで見える「飛蚊症(ひぶんしょう)」の症状が悪化したり(数が増える、大きくなる)、光が当たらないのに稲妻のような光が見える「光視症(こうししょう)」が起こったりすることがあります。
● 治療法
網膜剥離は、放置するとほぼ100%失明に至るため、緊急手術が必要です。治療法としては、レーザーで剥がれた部分を焼き固める「網膜光凝固術」や、眼球の外側からシリコンを縫い付けて剥離を治す「強膜バックリング術」、眼球内部から処置する「硝子体手術」などがあります。
急な飛蚊症の悪化や光視症、視野欠損は網膜剥離のサインです。これらの症状が現れたら、様子を見ずに、すぐに眼科を受診してください。時間との勝負になります。
加齢黄斑変性:中心が見えにくくなる、高齢化社会の新たな脅威
● どんな病気?
加齢黄斑変性は、加齢に伴い、網膜の中心部である「黄斑(おうはん)」に障害が起こる病気です。黄斑は、物を見る上で最も重要な部分で、色の識別や形の認識などを担っています。欧米では成人の失明原因第1位であり、日本でも患者さんが増加しています。
● 特徴的な視野の欠け方
視野の中心が見えにくくなる「中心暗点」や、物が歪んで見える「変視症」が主な症状です。初期は片方の目に発症することが多く、もう片方の目が補ってしまうため、異常に気づきにくいことがあります。
● その他の症状
視力の低下、色の識別がつきにくくなる、といった症状も現れます。
● 治療法
新生血管(異常な血管)の発生を抑える薬剤を眼内に注射する「抗VEGF療法」が治療の主流です。その他、特殊なレーザーを照射する「光線力学的療法」などもあります。
「物が歪んで見える」という症状は、加齢黄斑変性の特徴的なサインです。先ほど紹介したアムスラーチャートで、格子の歪みを感じたら、早めに眼科で詳しい検査を受けましょう。
糖尿病網膜症:糖尿病の三大合併症のひとつ
● どんな病気?
糖尿病の合併症として、網膜の血管が障害される病気です。糖尿病腎症、糖尿病神経障害と並び、三大合併症と呼ばれています。初期は自覚症状がほとんどなく、気づかないうちに進行していることが多いのが特徴です。
● 特徴的な視野の欠け方
初期は無症状ですが、進行すると網膜に出血が起きたり、硝子体に出血したりして、視野の一部がかすんだり、飛蚊症が現れたりします。重症化すると、網膜剥離(牽引性網膜剥離)を起こして広範囲な視野欠損や失明に至ります。
● 治療法
何よりもまず、原因である糖尿病の血糖コントロールが基本です。その上で、網膜の状態に応じて、レーザー治療(網膜光凝固術)、抗VEGF療法、硝子体手術などが行われます。
糖尿病と診断されている方は、目の症状がなくても、必ず定期的に眼科で眼底検査を受けてください。血糖コントロールと定期検診が、視力を守るための鍵となります。
網膜静脈閉塞症:突然発症する網膜の血管障害
● どんな病気?
網膜にある静脈が詰まってしまい、血液の流れが滞ることで、網膜の出血やむくみ(黄斑浮腫)を引き起こす病気です。高血圧や動脈硬化と関連が深いとされています。
● 特徴的な視野の欠け方
突然、片方の目の視野の一部が暗くなったり、かすんで見えたりします。血管が詰まった場所によって、視野欠損の範囲は異なります。黄斑部に浮腫が起こると、中心部の視力が著しく低下します。
● 治療法
黄斑浮腫に対して、抗VEGF療法やステロイド薬の注射が行われます。また、血流の悪い部分に対してレーザー治療を行うこともあります。
高血圧や動脈硬化の持病がある方で、突然の見え方の異常を感じた場合は、この病気の可能性があります。内科的な管理と併せて、眼科での治療が必要です。
目だけじゃない?視野の欠けは「脳の病気」が原因のことも
視野の異常は、必ずしも目の病気だけで起こるわけではありません。目から入った視覚情報が伝わる脳の経路(視路)に問題が生じても、視野欠損は起こります。
脳梗塞・脳出血・脳腫瘍
● どんな仕組みで起こる?
視神経は、脳の後ろにある「後頭葉」という部分につながっています。この視覚情報を処理する経路のどこかに、脳梗塞や脳出血、脳腫瘍などによって障害が起きると、視野が欠けることがあります。
● 特徴的な視野の欠け方
脳が原因の場合、視野の右半分または左半分が見えなくなる「同名半盲(どうめいはんもう)」という特徴的な症状が出ることが多いです。これは、右の後頭葉に異常があれば両目の左側視野が、左の後頭葉に異常があれば両目の右側視野が、それぞれ欠損する状態です。
● その他の症状
激しい頭痛、ろれつが回らない、手足のしびれ・麻痺、めまいなど、他の神経症状を伴うことが多いです。もし、このような症状とともに視野の異常が現れた場合は、一刻も早く脳神経外科や救急外来を受診する必要があります。
一時的な視野の異常:閃輝暗点(せんきあんてん)とは?
中には、数分から数十分で治まる一時的な視野の異常もあります。その代表が「閃輝暗点」です。
● どんな症状?
突然、視野の中心あたりにギザギザした光や、キラキラした歯車のような光の波が現れ、それが徐々に拡大していきます。光の部分は見えにくくなります。この症状は、5分~30分程度で自然に消えていきます。
● 原因は?
多くは「片頭痛」の前兆として起こります。脳の血管が一時的に収縮し、その後拡張することで、視覚を司る後頭葉の血流が変化するために起こると考えられています。閃輝暗点が治まった後に、拍動性の頭痛や吐き気が続くのが典型的なパターンです。
● 注意点
ほとんどは片頭痛に伴うものですが、まれに脳梗塞や脳動静脈奇形といった病気が隠れている可能性も否定できません。初めて経験した場合や、いつもと様子が違う場合は、自己判断せずに一度眼科や脳神経外科で検査を受けるようにしましょう。
眼科ではどんな検査をするの?
「眼科に行っても、何をされるかわからなくて不安…」という方のために、視野の異常を調べる際に行われる主な検査を紹介します。
- 視力検査:基本的な目の能力を調べます。
- 眼圧検査:目に空気を当てたり、直接器具を接触させたりして、目の硬さ(眼圧)を測定します。緑内障の診断に不可欠です。
- 細隙灯顕微鏡検査:顕微鏡で目の表面から前の部分(角膜、水晶体など)を詳しく観察します。
- 眼底検査:瞳孔を開く目薬(散瞳薬)をさした後、検眼鏡や眼底カメラを使って、目の奥にある網膜や視神経の状態を直接観察します。網膜剥離や緑内障、加齢黄斑変性など、多くの病気の診断に非常に重要です。
- 視野検査:一点を見つめたまま、周辺に見える光に反応できるかを調べ、視野の範囲や欠損の有無・程度を精密に測定します。緑内障の進行度判定などに用います。
- OCT(光干渉断層計)検査:網膜や視神経の断面を、光を使って数分で撮影できる最新の検査です。緑内障の超早期発見や、加齢黄斑変性のむくみの程度の評価などに絶大な威力を発揮します。
これらの検査は、ほとんど痛みを伴うものではありません。安心して検査を受けてください。
まとめ:視野の欠けに気づいたら、ためらわずに眼科へ
この記事では、「視野が欠ける」という症状から考えられる様々な病気について解説してきました。
改めて、重要なポイントをまとめます。
- 「視野が欠ける」は、緑内障、網膜剥離、加齢黄斑変性など、失明につながる病気のサインである可能性が高い。
- 初期は自覚症状が乏しい病気が多く、気づいた時にはかなり進行しているケースも少なくない。
- 「物が歪む」「飛蚊症が悪化」「黒いカーテンが見える」などの症状は、特に緊急性が高いサイン。
- 目の病気だけでなく、脳梗塞など命に関わる病気が隠れていることもある。
- 「年のせい」「疲れ目」と自己判断するのが最も危険。
私たちの体は、様々なサインを発して異常を知らせてくれます。「視野が欠ける」という症状は、あなたの目や、時には脳が発している、極めて重要な警告サインです。
この記事を読んで、少しでもご自身の症状に心当たりがあったなら、どうか先延ばしにしないでください。不安な気持ちを抱えたまま過ごすよりも、専門家である眼科医に相談することが、安心への一番の近道です。
早期発見・早期治療によって、あなたの「見える」未来を守ることができます。今すぐ、お近くの眼科を検索し、予約の電話を入れましょう。その小さな一歩が、あなたの人生を大きく変えるかもしれません。