「目が乾いてショボショボする」
「パソコン画面を見ていると目が疲れる」
「なんとなく目に不快感がある」
現代社会において、このような目の悩みを抱えている方は非常に多いのではないでしょうか。スマートフォンの普及や長時間のデスクワーク、エアコンの効いた乾燥した室内環境。私たちの目は、常に過酷な状況にさらされています。
その不快な症状、もしかしたら単なる疲れ目ではなく「ドライアイ」という病気かもしれません。ドライアイは、日本国内で約2,200万人もの患者さんがいると推定されるほど、非常に身近な疾患です。
この記事では、ドライアイの原因、具体的な症状、ご自身でできる対策、そして眼科で行われる専門的な治療法まで、どこよりも詳しく、そして分かりやすく解説していきます。
「ただの目の乾き」と軽視せず、この記事を読んでご自身の目の状態と向き合ってみませんか?最終的には、つらい症状を我慢せず、眼科を受診することの重要性をお伝えします。あなたの目の健康を守るための一助となれば幸いです。
そもそも「ドライアイ」とは?単なる乾燥ではない病気です
ドライアイとは、一言でいえば「涙の異常によって、目の表面に傷や障害が生じる病気」です。私たちは普段意識していませんが、目の表面は常に「涙」の薄い膜で覆われています。この涙の膜は、目を潤すだけでなく、目に栄養を届けたり、ゴミや細菌から目を守ったり、モノをクリアに見るためのレンズのような役割を果たしたりと、非常に重要な働きを担っています。
ドライアイは、この大切な涙の「量が不足する」または「質が悪くなる(蒸発しやすくなる)」ことによって、涙の膜が不安定になり、目の表面が乾いてしまう状態です。その結果、様々な不快な症状が引き起こされるのです。
涙の構造とドライアイの関係
私たちの涙は、実は一層構造ではありません。目の表面側から「油層」「水層」「ムチン層」という3つの層で構成されています。
- 油層:まぶたの縁にある「マイボーム腺」から分泌される油の層。涙の一番外側にあり、涙の蒸発を防ぐフタの役割をしています。
- 水層:涙の大部分を占める層で、主涙腺などから分泌されます。目に潤いと栄養を与え、異物を洗い流します。
- ムチン層:結膜の細胞から分泌されるネバネバした層。角膜の表面に涙を均一に広げ、留まらせる接着剤のような役割を果たします。
ドライアイは、水層の分泌が減る「量的な異常」と、油層やムチン層の質が悪化して涙がすぐに蒸発してしまう「質的な異常」の2つのタイプに大別されます。特に近年では、油層の異常である「マイボーム腺機能不全(MGD)」を伴う、涙が蒸発しやすいタイプのドライアイが増えていることが分かっています。
これってドライアイ?多様な症状をセルフチェック
ドライアイの症状は「目が乾く」だけではありません。非常に多岐にわたるため、「まさかこれがドライアイの症状だとは思わなかった」という方も少なくありません。以下のチェックリストで、ご自身の症状を確認してみましょう。
- 目が乾いた感じがする(乾燥感)
- 目がゴロゴロする、異物感がある
- 目が痛い、ヒリヒリする
- 目が疲れる(眼精疲労)
- 白目が赤くなる、充血しやすい
- ものがかすんで見える、視力が安定しない
- 光がまぶしく感じる
- 目やにがでる
- 理由もなく涙が出る
- コンタクトレンズの調子が悪い、すぐに曇る
5つ以上当てはまる方は、ドライアイの可能性が比較的高いと言えます。特に注目したいのが「理由もなく涙が出る」という症状です。目が乾く病気なのに涙が出るのは不思議に思われるかもしれませんが、これは目が乾燥しすぎることで、それを補おうと反射的に大量の涙が一度に出てしまうために起こる症状です。しかし、この涙は質が悪く、すぐに蒸発してしまうため、目の潤いを保つことはできません。
また、「白目が赤い、目の充血」もドライアイの代表的な症状です。目の表面が乾燥してバリア機能が低下すると、わずかな刺激でも炎症が起きやすくなり、血管が拡張して充血してしまいます。慢性的な充血に悩んでいる方は、ドライアイが原因かもしれません。
なぜドライアイになるの?考えられる8つの原因
ドライアイは、ひとつの原因だけで発症することは少なく、複数の要因が複雑に絡み合って起こることがほとんどです。あなたの生活習慣の中に、ドライアイを引き起こす原因が隠れているかもしれません。
1. 長時間のPC・スマートフォン作業
現代型ドライアイの最大の原因とも言えます。私たちは通常、1分間に約20回まばたきをしています。しかし、PCやスマホの画面に集中していると、まばたきの回数が4分の1以下の5回程度にまで減ってしまうと言われています。まばたきは、涙を目の表面に均一に行き渡らせるワイパーのような役割をしています。その回数が減ることで、涙が蒸発しやすくなり、目が乾いてしまうのです。
2. 空調による乾燥
夏や冬、エアコンの効いた室内は快適ですが、空気は非常に乾燥しています。湿度が低い環境では、目の表面からの涙の蒸発が進み、ドライアイの症状を悪化させます。特に、エアコンの風が直接顔に当たるような環境は要注意です。
3. コンタクトレンズの装用
コンタクトレンズは、角膜(黒目)の上に乗せて使用します。レンズが涙を吸収してしまったり、涙の循環を妨げたりすることで、目が乾きやすくなります。また、レンズの汚れが涙の質を悪化させる原因にもなります。特にソフトコンタクトレンズは水分を含むため、蒸発する際に目の涙を奪いやすく、ドライアイを助長する傾向があります。
4. 加齢
年齢を重ねると、涙を分泌する涙腺の機能が低下し、涙の分泌量そのものが減少します。また、涙の質を保つために重要な油を分泌するマイボーム腺の働きも衰え、涙が蒸発しやすくなります。そのため、高齢になるほどドライアイになりやすくなります。
5. 性別(女性ホルモンの影響)
ドライアイは男性よりも女性に多いことが分かっています。これは、女性ホルモンのバランスが涙の分泌に影響を与えるためと考えられています。更年期になると女性ホルモンが減少するため、ドライアイの症状が出やすくなることがあります。
6. マイボーム腺機能不全(MGD)
近年、ドライアイの最も大きな原因の一つとして注目されているのが、このマイボーム腺機能不全(MGD: Meibomian Gland Dysfunction)です。マイボーム腺は、涙の蒸発を防ぐ油を分泌する器官で、上下のまぶたの縁にあります。この腺が詰まったり、働きが悪くなったりすると、油の分泌が減少し、涙がすぐに蒸発してしまう「蒸発亢進型ドライアイ」を引き起こします。アイメイクがしっかり落とせていない、加齢、炎症などが原因で起こります。
7. 他の病気の影響
シェーグレン症候群のような自己免疫疾患では、涙腺や唾液腺が破壊され、重度のドライアイや口腔乾燥を引き起こします。また、アレルギー性結膜炎、関節リウマチ、糖尿病などもドライアイを合併することがあります。
8. 薬の副作用や生活習慣
血圧を下げる薬、精神安定剤、抗ヒスタミン薬(アレルギーの薬)など、一部の薬の副作用として涙の分泌が減少することがあります。また、ストレス、睡眠不足、不規則な食生活、喫煙なども、自律神経のバランスを乱し、涙の量や質に影響を与えると考えられています。
今日からできる!ドライアイ対策とセルフケア
ドライアイの症状を和らげ、悪化を防ぐためには、日々のセルフケアが非常に重要です。眼科での治療と並行して、生活習慣を見直してみましょう。
意識的な「まばたき」と「休憩」
PCやスマホ作業中は、意識的にまばたきの回数を増やしましょう。「1時間に10分は休憩する」「遠くの景色を眺める」など、目を休ませる時間を確保することが大切です。「ギュッと閉じて、パッと開く」というまばたき体操も効果的です。
作業環境の改善
- モニターの位置:画面が目線より下になるように調整します。見下ろす形にすることで、目が大きく開くのを防ぎ、涙の蒸発を抑えられます。
- 加湿:加湿器を使用したり、濡れタオルを干したりして、室内の湿度を40~60%に保ちましょう。
- エアコンの風:エアコンの風が直接顔に当たらないように、風向きを調整したり、席の位置を変えたりする工夫が必要です。
- ブルーライトカット:ブルーライトカット機能のあるメガネやフィルムの使用は、目の疲れを軽減する助けになります。
目を温める「温罨法(おんあんぽう)」
マイボーム腺の詰まりを改善し、涙の油層の分泌を促すのに効果的なのが「目を温める」ことです。蒸しタオルや市販のホットアイマスクなどを使い、1日5分程度、まぶたの上からじんわりと温めましょう。リラックス効果もあり、眼精疲労の回復にも繋がります。お風呂で温かいシャワーをまぶたに数分間当てるのも手軽な方法です。
食事と栄養
目の健康を保つためには、バランスの取れた食事が基本です。特に、目の粘膜を健康に保つビタミンA(レバー、うなぎ、緑黄色野菜)、血行を促進するビタミンE(ナッツ類、アボカド)、涙の成分にも含まれるDHA・EPA(青魚)などを意識的に摂取すると良いでしょう。
市販の目薬の選び方と注意点
セルフケアとして市販の目薬を使用する方も多いでしょう。選ぶ際のポイントと注意点を押さえておきましょう。
- 涙の成分に近いものを:人工涙液タイプの、涙の成分に近い目薬が基本です。目の潤いを補給する目的で使用します。
- 防腐剤フリーがおすすめ:多くの目薬には品質保持のために防腐剤(塩化ベンザルコニウムなど)が含まれています。1日に何度も点眼する方や、コンタクトレンズの上から使用する方は、角膜にダメージを与える可能性があるため、防腐剤の入っていない「防腐剤フリー」や「1回使い切りタイプ」の製品を選ぶのが安心です。
- 血管収縮剤に注意:充血をすぐに取るタイプの目薬には、血管を収縮させる成分が含まれています。一時的に白目が綺麗になりますが、効果が切れるとリバウンドで余計に充血(反跳性充血)することがあります。根本的な治療にはならず、長期連用は避けるべきです。充血が続く場合は、その原因を眼科で調べてもらうことが重要です。
市販薬を使っても症状が改善しない、または悪化する場合は、自己判断を続けずに必ず眼科を受診してください。
セルフケアで改善しないなら眼科へ。専門的な検査と治療法
ドライアイは、適切な治療を受けずに放置すると、角膜の表面に無数の傷がつき、視力低下や感染症のリスクを高めることがあります。つらい症状を我慢したり、自己判断で市販薬を使い続けたりせず、専門家である眼科医に相談することが、根本的な解決への一番の近道です。
眼科で行われる主な検査
眼科では、問診で症状を詳しく聞いた後、以下のような検査を組み合わせてドライアイのタイプや重症度を診断します。
- シルマーテスト:涙の「量」を調べる検査です。目盛りのついた専用の試験紙を下まぶたに挟み、5分間でどれくらい涙で濡れるかを測定します。
- BUT(涙液層破壊時間)検査:涙の「質」を調べる検査です。フルオレセインという試薬で涙を染色し、まばたきを止めてから、涙の膜が乾いて破壊されるまでの時間を測定します。この時間が5秒以下だと、涙が不安定な状態(ドライアイ)と診断されます。
- 角結膜染色検査:目の表面の傷の状態を調べる検査です。フルオレセインなどの染色液を使い、傷ついた部分を染色して顕微鏡で観察します。
- マイボーム腺の観察:専用の機器を使って、まぶたにあるマイボーム腺の状態(詰まりや欠損など)を直接観察し、MGDの有無を診断します。
眼科での主な治療法
検査結果に基づき、患者さん一人ひとりの状態に合わせた治療が行われます。
- 点眼薬による治療
ドライアイ治療の基本となります。市販薬とは異なり、より効果的な成分が含まれた処方薬が用いられます。- 人工涙液・ヒアルロン酸点眼薬:涙の量を補い、目の潤いを保ちます。ヒアルロン酸は保水力が高く、角膜の傷の治癒を促進する効果もあります。
- 涙の分泌や安定性を改善する点眼薬:涙の成分である水分やムチンの分泌を促進する薬(ジクアホソルナトリウム、レバミピド)です。涙の「量」と「質」の両方にアプローチし、涙そのものを正常な状態に近づけます。
- ステロイド点眼薬:目の表面の炎症が強い場合に使用します。炎症を抑えることで、ドライアイの不快な症状を軽減します。副作用のリスク管理が必要なため、医師の指示通りに使用することが重要です。
- 涙点プラグ
点眼薬だけでは効果が不十分な重症の患者さんに行われる治療法です。涙の排出口である「涙点(るいてん)」に、シリコン製の小さな栓(プラグ)を挿入します。これにより、涙が鼻の方へ流れ出るのを防ぎ、目の表面に涙を溜めることができます。外来で短時間で行える治療で、痛みもほとんどありません。 - マイボーム腺機能不全(MGD)への治療
MGDが原因のドライアイの場合、以下のような専門的な治療が行われます。- リッドハイジーン(まぶたの清掃):専用のシャンプーなどを使って、まぶたの縁を清潔に保ち、マイボーム腺の詰まりを予防・改善します。
- IPL(Intense Pulsed Light)治療:特殊な光をまぶたに照射することで、マイボーム腺の詰まりを解消し、炎症を改善する新しい治療法です。一部の医療機関で自費診療として行われています。
まとめ:つらい目の不快感、我慢せずに眼科へ相談を
今回は、「ドライアイ」について、その正体から原因、対策、最新の治療法までを網羅的に解説しました。
ドライアイは、単に「目が乾く」という一過性の症状ではなく、涙の異常によって引き起こされる進行性の疾患です。その背景には、長時間のデジタルデバイス使用、コンタクトレンズ、加齢、マイボーム腺の機能不全など、様々な原因が潜んでいます。
日々のセルフケアは症状の緩和に非常に有効ですが、それだけでは根本的な解決に至らないケースも少なくありません。特に、「白目が赤い」「目の充血がとれない」といった症状は、目の表面が炎症を起こしているサインかもしれません。
もし、あなたがドライアイの症状に悩まされ、生活の質(QOL)が低下していると感じるなら、どうか我慢しないでください。自己判断で市販薬を使い続けるのではなく、一度、眼科の専門医に相談することをおすすめします。
眼科では、あなたのドライアイの本当の原因を突き止め、最適な治療法を提案してくれます。点眼薬だけでなく、涙点プラグやIPL治療といった選択肢もあります。専門的な治療を受けることで、長年悩んでいた不快感から解放されるかもしれません。
大切なあなたの目を守るために、勇気を出して眼科の扉を叩いてみてください。